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2012年06月21日(木)
【呪いのハチマキ】


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今日はお天気も良く洗濯物がよく乾いた。
侍女達からたった今乾いたばかりの衣服を受け取り妻はいそいそと自室へ向かっていた。

息を吸い込みお陽さまの香りが染み込む洗濯物の匂いを堪能する。

夫の洗濯物に火熨斗を熨せて香を焚き染める事が楽しくて嬉しくて仕方無いのだ。

早速、西の対の屋で洗濯物を広げ官服に火熨斗をかけていると、対面で寛いでいる皇毅がチラリと様子を窺うように視線を上げた。
しかしまたすぐに手にしている公案小説の続きを読み始める。


なんとものんびりとした休日の夫婦。
訪ねてくる者も特になし。


「皇毅様、見てください」

声に促され再び皇毅が視線だけを上げると、大人しく火熨斗をあてていた妻の額には御史台長官職の印が刻まれた額当てが巻かれていた。

ふわふわした髪の毛に硬質な印象を与える皇毅の額当ては、なんとも

−−−マヌケだった

自分はいつもあんなマヌケなものを頭に巻いていたのかと思うくらい妻が巻くと変だった。

「似合いますか?」

加えて寒い質問をされる。

「………先日私が買ってやった簪はどうした。何故私の官給品を巻いて『似合いますか』とかほざいているんだ」

「でも………此方の方が素敵なんですもの」

オカシイだろう!

と、非難の言葉が喉まで出掛かったが飲み込んだ。妻の土俵に降りたくない。

「それなら今日だけ貸してやるから気が済む勝手に巻いていろ」

しかし、と皇毅は鋭い双眸で嬉しそうにしている妻を睨み付けた。

「その額当ては私以外が巻くと呪われるぞ。覚悟しておくんだな」

妻はパチパチ、と瞳を瞬かせるが返す素振りは見せない。皇毅の嘘八百を無視し本当に一日巻いている気だ。

もう勝手にしろ、と諦念した皇毅は放っておく事にした。



−−−−−−−−−−−



夕刻、

邸に妻の悲鳴が上がった。



何事かと駆け付けた皇毅に背を向け、額当てと手鏡を持ったまま妻は座り込んでいる。

「皇毅様………見ないでください……私、額当てに呪われました」

「何、?」

無理矢理顎を掴んで顔を覗くと妻はポロポロと涙を流していた。
更によく見ると、妻の顔は額当てを巻いていた部分だけ肌の色が違っていた。

額当てをしたまま庭で薬湯壺を扇ぎ続けた結果、変な形で日焼けをしてしまっているのだ。

(成程………官服のまま陽に晒されるとこうなるのか)

気を付けよう。

泣きながらヘチマを擦って化粧水を作る妻の背を撫でながら、皇毅は黙って薄情な事を考えていた。



そんなのんびりとした休日の夫婦。

訪ねてくる者もやはりなし。










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