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2012年07月11日(水)
【葵皇毅 御薦め百選】


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王宮の通用門から一台の軒がガタガタと急ぐ様相で現れた。

出会した騎馬隊の武官達が軒に驚き路を開ける。
蔀は下ろされ、どこ高官なのかは分からないが随分無遠慮な振る舞いだと舌打ちする者もいた。

冷めた視線を集めながらも官吏達の横をすり抜けた軒は街道へ入り目的地に向けてひた走る。
やがて景観は連なる邸宅地に変わり土埃をあげていた車輪が止まった。

軒から踏み板を介して降りてきたのは邸の主で腕に匣を抱えてながら邸の門をくぐり妻のもとへと急ぐ。

「皇毅……!?こんな午にどうされたのか」

いきなり現れた主に回廊で固まる家令に「急用だ」と適当な返事をして皇毅は足を進めた。


妻が風邪をひいて寝込んでいる。
そんな彼女の為によいもを手に入れ急いで戻って来たのだ。

自室の扉を開けると大人しく寝ていた妻が掛布からひょっこりと顔を覗かせた。嬉しそうだが顔が紅い。

「皇毅様、お帰りなさいませ………ケホ、」

少しばかり上気する額に手を当てるとやはりまだ熱い。

「夏風邪はナントヤラだ。そんなお前によいものを持って来たぞ」

皇毅は早速手に入れた『よいもの』を抱えていた匣から出した。


−−−カラン、カラン、ゴロン、


透き通る氷の塊が四つ



「兵部尚書が蜜氷にしようとしていたので頂いて来た。炎症した喉には最適だ」

「えっ!」「何ですと、!?」

妻と後をついてきた家令は同時に声を上げた。

「この時期にはかなり貴重な氷を……四つも?」

一つならばまだ微笑ましいが、氷の塊は四つもある。

よもや、全部ぶんどって来たのではあるまいな。

「一つだけなど、どんなに急いでも邸にたどり着くまでに溶けて跡形もなくなるではないか。なので全部頂いてきた」

「えー、!皇毅様ったら!」「………」

妻は呆れた声を上げ、家令は絶句し、皇毅はちゃくちゃくと氷を割って器に盛っている。

「適材適所だ。お前の喉を楽にするのが最も意義のある使い道だと思わんのか」

「でも……兵部尚書様の……氷ですよね、はむ、」

言い掛けている妻の口に氷を一つ押し込んだ。

もぐもぐと氷を楽しむ妻の様子を見て皇毅は眸を細める。

「ゆっくり味わえ」

家令も目を細め、しかし此方は呆れ顔。


『葵皇毅 御薦め百選』


これを贈られた者は皇毅が納得するまで纏わりつかれる。
御薦めを全うとするまでじっと観察されることになるのだ。

妻が鬱陶しいと思わなければよいのだがと家令は案じるが、「御礼状を書きますね」と嬉しそうに氷を楽しむ妻と、少し冷えた頬を機嫌良く撫でる皇毅の様子に段々心配するのも馬鹿らしくなって来るのだった。













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